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概要

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2017 spring vol.29   16完成『チョコレートケーキと法隆寺』監督 向井啓太むかい・けいた 1991 年生まれ。慶応義塾大学卒。王寺町在住。5 歳から12歳まで児童養護施設で育つ。20 歳で再会したかつての仲間たちを訪ね、自らの過去にも向き合う映画作品『チョコレートケーキと法隆寺』で、初作品にして受賞多数。これからは、この作品のブラッシュアップに取り組んでいきたいという。生まれた境遇にとらわれない機会を家庭と施設の境界から見えるもの 今になって施設が注目を浴びているのは、社会が成熟してきたからなのかもしれません。加えて、発信する手段が増えたからというのもあるかもしれません。僕は、映画を作ることでライフストーリーワークという生い立ちの整理を行いましたが、今思うとそれが社会に訴えるための手段にもなっています。また、この映画を作ることができたのは、僕が施設の友人たちと全く異なる、境界人だったからです。虐待や育児放棄を受けたわけではない、家庭も知っているし、施設での生活も知っている。そして、僕は同時にどちらの生活にも不満を抱えていて、どちらにも完全には属せなかったからこそ見えるものがあったのだと思います。僕があのまま施設にいたら、確実にこの映画は作れませんでした。 そんな目線から見えてくるのが、社会的養護をとりまく様々な問題です。それらは、保育士の人員配置・早期離職、特に退所後に親との関係や過去に向き合う上で拠り所となる心理ケアを行う人、不動産を借りる際の人的保障などヒトの問題。児童が暮らしやすい環境にするための施設の整備などモノの問児童養護施設とは 一般の方が児童養護施設についてどう思うかは、僕にはよくわかりません。なぜなら僕にとっては育った場所であり、馴染みのあるところだからです。たとえば、孤児院のようなイメージを持つ方が多いのでしょうか。かつての救護法では、孤児院という名称でした。今では、児童福祉法によって児童養護施設と改称され、法律上では以下のように定義されています。保護者のない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて対処した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設、です。 社会情勢により児童が家庭で暮らせない主な理由は変遷してきたものの、法制度の程度に関わらず、身寄りのない児童は社会が育ててきました。施設とは、ただそれだけのところなのです。もちろん、今では孤児は多くありません。多くは虐待や育児放棄、次いで障害を持つ児童です。児童養護施設出身者によるドキュメンタリー映画