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07  2017 spring vol.29んでの自主学習が中心だった。しかしこれだと、どうしても苦手な科目が後回しになってしまうため、16年度は科目ごとに一冊ずつ参考書を決めて配布し、これをテキストにして進めている。とはいえ、進度は各自のペースに合わせており、個別指導という基本は変わらない。 運営管理責任者は、折を見て子どもたち1人ひとりと面談を行い、家庭での学習状況や学校の成績、進路希望などを把握するように努めている。また、毎回の学習内容については個人別のファイルにその都度記録。指導するメンバーが変わっても、きちんと前回までの進度を踏まえて対応できるようにしている。 受験直前の時期になると、3年生のために土日もやすクールを開講する。科目の勉強だけでなく、職業観醸成を目的とする社会人講話も年間5回ほど実施。公務員、建築士、新聞記者など、学習ボランティアとしても関わっている多様な職業の社会人が、仕事のやりがいなどについて自分の体験をもとに話している。 また、「やすクール」が勉強の場だけでなくやすらぎの場ともなるように、夏休みお楽しみ会やクリスマス会なども催している。こうした場を通じた子どもたちとスタッフや学習ボランティアとの交流が、互いの信頼関係を強め、ひいては学習の効果をより高めることにつながる。家庭内のトラブルが学習のつまずきに 野洲市市民生活相談課長補佐の生しょうず水裕美さんは、「親のDVなどのトラブルが、学習につまずくきっかけになることが多い」と指摘する。複雑な家庭環境を抱える子どもたちは勉強に集中することが難しく、同級生に後れをとると学校が楽しくなくなって、問題行動を起こすケースも。 そうした、家庭でも学校でも居場所がなくなりがちな子どもたちに落ち着いた学習環境を提供し、勉強の楽しさに気づいてもらうことが、やすクールの使命だ。これまで将来のことなど考えたこともなかった女子生徒が、「保育士になりたい」という目標を見つけ、熱心に勉強に取り組むようになった例もあるという。15年度は8人が高校を受験し、全員が志望校に合格。 もう1点特筆されるのは、庁内外の広範な連携体制がこの取り組みを支えていることだ。「やすクール」の運営協議会には、所管課の市民生活課のほか教育委員会、協働推進課、社会福祉課、子育て家庭支援課、NPO、社会福祉協議会などが参加。「やすクール」の成果を学校での学びにもつなげるとともに、単なる学習支援にとどまらず、子どもたちのあらゆる問題をケアする仕組みが整えられている。一人を救えない制度は制度ではない 庁内外の緊密な連携は、「やすクール」に限らず野洲市における生活困窮者支援事業全体を貫く特徴だ。職員みんなが「1人を救えない制度は制度ではない」という意識を持ち、一人の困った市民のために寄ってたかっておせっかいを焼く。市税などの支払いに困って来庁した市民を「よくぞ来てくださいました」と歓迎し、その場で相談窓口に案内して、必要があれば法律家に連絡したり「やすワーク」(庁内に常設されているハローワーク)につなぐ。 16年10月には、これまでの一連の取り組みをまとめた「野洲市くらし支え合い条例」を施行した。その23条はこう記されている。「市は、その組織及び機能の全てを挙げて、生活困窮者等の発見に努めるものとする」 これだけ行政の本気度が伝わる、血の通った条文を、筆者は他に知らない。なお敢えて「等」と加えているのは、経済的困窮にとどまらず「地域社会からの孤立その他生活上の諸課題を抱える市民」(同条例第2条)と、自立支援法より対象を広く捉えているためだ。おにぎり隊のみなさんお楽しみ会の様子野洲市市民生活課のみなさん